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なんで腕が筋肉痛になるの 雪彦山



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平成24年5月19日(土) メンバー 私だけ

山之内バス停〜登山口〜大天井岳〜虹ケ滝〜登山口〜山之内小学校


久方ぶりの雪彦山

 公共交通機関を用いて雪彦山へ登ろうとするならば、神姫バスの姫路駅(北口)7時40分発(平日・土曜・日曜・祝日とも同時刻)の山之内行きしかない。次発は12時35分になるので、乗り遅れたらそのまま家に引き返すしかない。お金が有り余っている御大臣様なら雪彦山登山口までタクシーで乗り付けるという手もあるにはあるが。

 以前は雪彦山登山口までバス路線が通じていて、私も何度か利用したことがある。だが毎度毎度、終点の雪彦山まで乗るのは私だけで、とうとう2年前の平成22年9月31日限りで手前の山之内までになってしまった。まあ、山之内から登山口まで歩いて1時間もかからないので準備運動の代わりに丁度よいかもしれない。

 ちなみに山之内の到着時刻は8時37分で乗車時間は57分で、料金は970円となる。

8:37
 山之内バス停より歩き始める。これまで同乗者で雪彦山へ登る人は皆無だったが、今日はなぜか3人もいる。変なの。

山之内バス停から歩き始める

8:46
 山之内バス停からすぐ前の橋を渡り、山之内小学校の前を通り、T字路に突き当たり右へ進む。バス停近くにも案内標識があったが、ここにもあり迷うことはない。その案内標識によれば雪彦山まであと3.1kmとなっているが、ドライバー向けなので登山口までだな。

雪彦山登山口まであと3.1km

8:54
 「シャガのさと」の案内板がところどころに立ち、道端にたくさんのシャガが群生し、きれいな花を咲き誇っている。シャガは4〜5月にアヤメに似た小ぶりな白っぽい薄紫色の花が咲かせ、花弁には紫と黄色の模様が入っている。

 中国原産の帰化植物で遥か昔に日本に移入されたもののようで、人為的に分布を広げてきたと言う。

道端に咲き誇るシャガの花

9:17
 人家がぽつぽつと点在する道を進むと、雪彦山が見えてきた。麓から山頂が望める数少ない山の一つで、そびえる岩峰が雪彦山の頂上だ。

 大天井岳・不行岳・三峰岳・地蔵岳などの岩峰からなる洞ケ岳の最高峰「大天井岳」が雪彦山の頂上だと私は思う。しかし地形図の915.2m三角点の位置に「雪彦山」の表記があるため、そこを雪彦山の頂上とする人が多い。単純にもっとも標高の高い地点を頂上とするならば、三角点雪彦山から北東の尾根続きに950m等高線に囲まれた場所があるが、そこを雪彦山の山頂だと主張する人はいない。

 ところで雪彦山大天井岳の標高を884mとしている山行記録が、過去の私のを含めて最近のものにも多数見受けられるが、その方々の読図能力はかなり怪しいと言うか、山に登ってはいけないレベルだ。今の私の目には、地形図の大天井岳の標高は800m以上810m未満としか読み取れない。

 どこからそんな誤りが起きたかは、山頂の公設の「雪彦峰山県立自然公園 名峰雪彦山」の表示板に「大天井岳(洞ケ岳)標高884m」の誤った補助表示が2002年(平成14年)まで取り付けられていたことに起因し、それを信じた山に登ってはいけないレベルの編纂者によるガイドブックが誤りを世間に広め、それに多くのハイカーが惑わされていると言う状態がいまだに続いているように思う。

標高810mほどの雪彦山頂上が麓から見える

9:24
 山之内バス停から歩き始めて47分、ようやくかつての神姫バス雪彦山バス停まで辿りついた。その当時、一車線幅の狭い道をここまでやってきたバスは、ぐるりと回り鳥居をくぐり姫路駅へと引き返したものだ。

なお、石鳥居の道の先は雪彦山の展望台でもある賀野神社へ通じ、さらに続く舗装林道(広域基幹林道雪彦峰山線、全長19km)を行くと峰山・砥峰高原の入口となる坂の辻峠へ至る。

平成22年9月31日まで神姫バスが乗り入れていた

 旧神姫バス雪彦山バス停のすぐ先が登山口で、天気の良い今日は、登山者の車が道端の駐車場所に20台ほど止まっている。ちなみに有料で、乗用車500円、マイクロバス1,000円、大型車2,000円となっている。

 登山口周辺には各種各様の案内板・警告板があるが、今回は次のものを紹介しよう。

雪彦峰山県立自然公園 特別地域での注意事項

雪彦峰山県立自然公園  特別地域での注意事項

 希少な動植物を勝手に採取することは、貴重な自然環境を破壊するだけでなく、県自然公園条例に違反する可能性がある他、鳥獣保護法や種の保存法などに違反するおそれがありますので、絶対にやめましょう!

 県立自然公園では、許可なく次の行為をすることは禁止されています。
(6月以下の懲役又は50万円以下の罰金)

 「兵庫県立自然公園条例」にもとづく禁止事項で、当然そのほかの憲法・法律・施行令・条例・慣習にそぐわない行為は行ってはならない。

 でも最後の禁止事項「その他」は、全てのことを禁じられているかのような印象を受け、登山自体もだめなのではなかろうかと、この警告板を見て引き返すハイカーがいるのではと心配になってくる。

 兵庫県立自然公園条例  抜粋

 第4章 保護及び利用 第9条 4
 特別地域内において、次に掲げる行為をしようとする者は、知事の許可を受けなければならない。ただし、当該特別地域が指定され、若しくはその区域が拡張された際既に着手していた行為若しくは第6号に規定する物が指定された際既に着手していた同号に掲げる行為又は非常災害のために必要な応急措置として行う行為については、この限りでない。
(1) 工作物を新築し、改築し、又は増築すること。
(2) 木竹を伐採すること。
(3) 鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
(4) 河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること。
(5) 広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。
(6) 屋外において土石その他の知事が指定する物を集積し、又は貯蔵すること。 (7) 水面を埋め立て、又は干拓すること。
(8) 土地を開墾し、その他土地の形状を変更すること。
(9) 高山植物その他の植物で知事が指定するものを採取し、又は損傷すること。
(10) 山岳に生息する動物その他の動物で知事が指定するもの(以下この号において「指定動物」という。)を捕獲し、若しくは殺傷し、又は指定動物の卵を採取し、若しくは損傷すること。
(11) 屋根、壁面、塀、橋、鉄塔、送水管その他これらに類するものの色彩を変更すること。
(12) 湿原その他これに類する地域のうち知事が指定する区域内へ当該区域ごとに指定する期間内に立ち入ること。
(13) 道路、広場、田、畑、牧場及び宅地以外の地域のうち知事が指定する区域内において車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させること。
(14) 前各号に掲げるもののほか、特別地域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがある行為で規則で定めるもの。

 第8章 罰則 第32条
次の各号のいずれかに該当する者は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
(1) 第9条第4項の規定に違反して同項各号に掲げる行為をした者

 警告看板の最後の禁止事項「その他」は、兵庫県立自然公園条例 第9条4(14) の「規則で定めるもの」に該当するものと判断できるが、具体的なその他禁止事項は条例を紐解いただけでは分からない。

 続いて「兵庫県立自然公園条例施行規則」を解読しなければならないが、なんで雪彦山に登るだけでこんなにも悩まなければいけないのか、あほらしくなってきた。施行規則の中に「登山」と言う単語がないかだけ検索してみたら「一致する項目はありませんでした」と出たので、暫定的に『雪彦山の登山は禁止されていない』と私は判断したが、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられても私は責任を負えない。


登山口から雪彦山大天井岳

9:33
 自家用車でやってくれば、雪彦山登山はこの場面から始まる。コテージの建つ雪彦山キャンプ場の脇に登山口があり、石段の道として始まっている。登山口は、このほかにそのまま道を進んだ先に、賀野神社近くにも、雪彦山の反対側の「やすとみグリーンステーション鹿ケ壺」にもあるが、ここから時計回りに周回するのが一般的だ。

 トイレはキャンプ場の中にもあるが使えないようで、駐車場南にあるトイレが最終となる。

雪彦山の登山口

9:39
 雪彦山は急だ。最初から最後まで急だ。六甲山に例えてみると、急な尾根道として知られている摩耶山の山寺尾根上部をさらに急にしたものが登山口から山頂まで続いているとものと思えば間違いない。

いきなり急な登りが待ち受けている

9:45
 不動岩と名づけれた大岩の間に登山道が通じている。始まりは展望のない植林や雑木林の尾根を登り、登る楽しさは少なく、不動岩も薄暗いだけのぱっとしない記憶に残らないものだ。

不動岩

9:57
 木の根をつかみ、岩角をつかみ喘ぎながら登っていくと、一気に展望が広がる。その名は「展望岩」と呼ばれるごつごつとした岩で、へたり込んで休むにはお尻が痛くなりそうな荒々しい岩場だ。

 これから登る岩峰が間近にそびえ、ここまで登ってきた疲れを忘れさせてくれる。

岩峰が間近に望める展望岩

10:04
 しばしの休憩の後、出発する。

10:09
 急な登りが続き体力を消耗させるが、赤ペンキの派手なマーキングが立ち木や岩に乱雑に描かれ、細かなルート取りに悩むこともなく、雪彦山遭難対策協議会によるポイントb祚TT携帯OKの目印などもたくさんあり、進路を違えようがない。

さらに急な登りが続く

10:16
 初めて雪彦山に登ったのは15年ほど前になるが、近頃の雪彦山は昔に比べて急になった気がしてならない。かつての私はカモシカのようにヒョイヒョイと、息も切らせずに飛ぶように登っていた記憶しかないが、今日の雪彦山はなんかキツイ。

 過去の記憶は苦しかったものは消え去り、楽しかったものばかりになり、どんな艱難辛苦・難行苦行・臥薪嘗胆・塗炭の苦しみな暮らしをおくってきても、最後は私の人生は幸多いものだったなと思い残すことなく黄泉の国へと旅立つと言い(私の願望)、過去の苦しかった雪彦山の登りを忘れ去ったためだと思いたいが、その真実は加齢のために違いない。

緩そうに見ても急な登りなのだ

10:23
 しつこいくらい急な登りが続くが、ほんの10mほどではあるが穏やかな水平道があり、一時の心の平安を取り戻す。だが、台風の目の偽りの青空の如く、更なる登り返しが待ち受けている。

こんな穏やかな道もあるが10mほどだ

10:35
 矢印の方向に登っているのではなく、後ろ向きに鎖にすがり付いて2mほどの段差を下りているのだ。数え切れない鎖場が控えていて、手慣らし足慣らしの序章に過ぎない。

 段差の下は写真でも急斜面に見えるが、さらに角度を増して、岩にV字型に刻まれた溝が奈落の底、地獄まで続くかのように一直線に続いている。じっと見ていると引き込まれそうで怖い。

雪彦山一番目の鎖場、但し下り

10:38
 「出雲岩」と呼ばれるオーバーハングした岩壁が空を覆うように屹立している下を通り抜ける。

 足元には出雲岩から剥がれ落ちた巨岩が積み重なり、それらが落ちたのは100年前なのか、1,000年前なのかうかがい知れない。とりあえず15年前と変化は感じられないので、直ちに崩落することはないだろうが、必ず次の崩落は間違いなく起こるのは必然で、そのときここに誰もいないことを祈ろう。

オーバーハングした出雲岩の下を通り抜ける

10:47
 出雲岩を通り過ぎると岩壁の溝にぶっとい鎖が下がっている。肩幅ほどの狭い溝が少し斜めになっていて、鎖に頼ると体が振り回され登りずらい。いっそのこと溝の脇をよじ登った方が簡単かもしれないが、雪彦山と鎖場は切っても切り離せない。いかに登り難い鎖場と言えども。避けてしまっては雪彦山の真髄を味わうことはできない。

狭い溝に下がる太い鎖にすがりよじ登る

10:53
 出雲岩の上になるのだろうか、展望抜群な「覗き岩」だ。写真で端まで行っているように写っているが、本当はまだまだ先がある。鳥のくちばしのような先細りの先端まで行く勇気はまったくない。

展望抜群、覗き岩

10:55
 「覗き岩」の背後にはあるのは「背割岩」だ。巨大な丸っこい岩を誰が割ったか知らないが、真っ二つに割れた岩に人がやっと通れるくらいの幅の隙間がある。入口は余裕があるが、進むにつれ隙間は捩れ狭くなりザックが引っかかってしまう。でも、なんとか体を捻れば通り抜けるはできる。

 閉所恐怖症の方なら無理やり通る必要はなく、背割岩の右側に、巻き道が用意されている。

赤矢印が雰囲気をぶち壊している
背割岩

11:01
 覗き岩・背割岩から雪彦山大天井岳頂上までは、岩登りの連続だ。雪彦山の一般登山道の中で一番面白いところと感じるが、惜しむらくはいずれも岩壁の平面的なもので、おまけに周囲を木立に取り囲まれているため、高度感は全くない。

 絶対的な安全が確保されているならば、足元が目もくらむような絶壁とか、両側が切れ落ちたナイフエッジとかなら、何倍も面白いのに残念だ。

鎖場が連続する岩場が楽しい雪彦山

 すごく大きなハチが進路上をあっちに行ったり、こっちに来たりと、スズメバチの女王様が巣作りの場所探し中なのか、知らずに巣に近づく私を警戒しているのか。春に刺傷被害にあったということは聴かないので、女王様が離れた隙に静かに通過する。

11:11
 女王様からもっと離れればいいのに、写真写りのよさそうなロープが下がる岩場があり、登ったり下りたり登ったり下りたり自分撮りに励む。

別にロープに頼らなくても
三点確保で登れるが
ここは雪彦山の作法に従わなくては

11:17
 ここが馬の背かな。両側が切れ落ちた?けれども高度感がまったくない馬の背だ。ここは細い背の上を歩み高度感を増し、難易度を上げつつ優雅にバランスよく通るのがエレガンスかなと思うが、私にはできない。

高度感が全くない馬の背

11:21
 登り最後の岩場だ。両手両足を使い登っていく。で、自分撮りを終えたら下りてカメラを回収し、縮めた三脚を右手に持ったり左手に持ったり、そして両足で二点半確保で難易度を無駄に上げ登る。

もうすぐ頂上だ


雪彦山大天井岳頂上

11:28
 登山口から1時間55分で雪彦山大天井岳頂上に到着。あまり広いとはいえないが狭くもない頂上は、初めて登った若者のグループから、登るたびに見かける雪彦山の主、遠路はるばるやってきたハイカーが15名ほど休憩している。天気はよいが播磨灘は霞みよく見えない。下を覗くと登山口のある集落が見えるが、岩峰群は見えない。絶壁の上に立っているはずだが、そんな感覚は全くない。

 それでは、播州野歩記恒例のシェー!!を執り行う。後ろ数メーターは絶壁、足元も万全ではなく、平常心ではなかったのか少し猫背になってしまった。

雪彦山大天井岳でシェー!!

 雪彦山大天井岳頂上の一番高い所にある祠だが、誰が祀られているかは修験道の山ゆえに分かりきったことで、中を覗き込むことなど必要のないことだ。

雪彦山大天井岳の祠

 でも、過去の私のような無知なハイカーも稀にはいるかと思い、のぞいて見た。

 一体目は、右手に剣、左手に縄を持ち火炎の光背背負うのは、誰でも知っている不動明王だ。

祠の中左は不動明王

 二体目は、右手に杖、写真には写っていないが足は高下駄、そしてあごにひげとくれば、修験道の開祖者たる役小角(役行者)しかいない。

祠の中右は役小角(役行者)


下山は最短距離で

 公共交通機関で来た私は、下山コースを自由に選択できると言う特権がある。つまり登ってきた東側の山之内へ下りてもよいし、西側のグリーンステーション鹿ケ壷へ下りてしまってもよいのだ。

 東側の山之内下山後のバス便は山之内17:15〜姫路駅18:11(970円)しかないが、絶対に間に合うし、2時間ほどのバス待ち時間を、雪彦温泉までの移動・入浴時間に当てれば一石二鳥だ。

 西側のグリーンステーション鹿ケ壷へ下山すると、バス便はグリーンステーション鹿ケ壷発山崎行き最終便14:45〜安志15:02・姫路駅行き乗換え15:19〜姫路駅16:16(1,480円)がある。運悪く、山崎行きの最終便間に合わなくても10kmほど歩けば安志バス停に着き、姫路駅行きの最終は19:11なので姫路駅まで帰り着くことは可能だ。

 しかし始めてのバス停から乗り、初めてのバス停で乗り換えることは、土地勘のないハイカーにはハードルが高すぎるような気もするし、山之内へ下山するのが賢明かもしれない。私もヒルが多いグリーンステーション鹿ケ壷には下りたくないし、長いバスの待ち時間を回避する秘策があるし、山之内側に下りることにする。

12:27
 雪彦山大天井岳での1時間の昼食休憩の後、下山開始。展望のない三角点雪彦山、北側の眺望が素晴らしい鉾立山は行ったこともあるし、いつも通り旧下山道の地蔵岳・虹ケ滝経由で登山口へ戻ることにする。

12:30
 雪彦山大天井岳北側直下は、風化が進んだ岩場でちょっと下り難い。かのトラロープ縛りの達人が管理する明神山なら、ここは縦横にロープが張り巡らされる場面だな。

 
雪彦山大天井岳頂上北側直下

12:35
 三角点雪彦山・グリーンステーション鹿ケ壷への道から別れ下山道に入ると警告板兼道標があり、「一般コース」と「上級コース」矢印が微妙な角度で示されている。実はこの一般コースも上級コースも差はほとんどなく、どちらも一般ハイキングコースとしては超上級コースに相当する。

下山道下り口の警告板

 この岩場は大変すべりやすいため、滑落事故多発しています。
 登山についてはくれぐれも注意をしてください。

 こんな警告板をメジャーな低山の一般登山コースで見ることは絶対に無い。一般登山コースで滑ることが滑落事故に直結するなど言語道断な、立ち入り禁止対象になってしかるべきだ。

 そんなこんなで、いきなり下り最初の鎖場が現れた。ほぼ垂直というか軽くオーバーハングしているし、下の岩は丸っこく見下ろしても足がかり手がかりはなさそう。この下山路は初めてではなく、以前はこれほどでもなかったように思う。鎖場下り口脇の大木が台風で倒れ鎖場を塞いでいたのが、誰か整理したのか自然に落ちたのか、鎖場下にその残骸が横たわっている。

 どうやって下りようかと戸惑っていると、ペアのハイカーが現れ鎖場右の岩場をするすると下りていってしまう。「ふーん、鎖は使わないんだ」でも鎖にすがることこそ雪彦山の真髄と、もうほとんど両腕の力だけで鎖にぶら下がりズルズルと下りていく。「ここで手が滑って落ちたら痛いだろうな、そのままゴロゴロと転がり落ちたらもっと痛いだろうな」などなど近未来の私の絵姿が走馬灯のよう脳内を駆け巡る。

 臨死体験をした人が見る走馬灯は、自分の一生の記憶を一瞬のうちに再現するというが、私の場合は視点が遊離し全体像を見下ろすというもので、これまでの人生で一度だけ経験があるが、今回はその再来かと思わず鎖を握り締める力が強くなり、腕にも力が入りすぎ、体が固まり縮こまってしまった。まずい。

 
いきなり真っ直ぐに下がる鎖場

 とんでもない垂直鎖場で自分撮りなど出来はしない。実はやろうと試みたが、下るのも登るのも大変で、カメラからの高度差を取ることができずに、写っていたのはお尻だけで没。

12:54
 これは二番目の鎖場下部の鎖下につながれた延長トラロープを握り締めているところ。本当はもっと上の鎖まで登り返して撮りたかったが、無駄な体力をというか腕力を使うことが難しい状況になってきた。

下山道一番目と、この二番目は鎖というよりは鉄梯子を設置してもおかしくないと思う。

 
二番目鎖場下部の延長トラロープ

13:06
 鎖場以外も足元が悪く大変。慎重が上にも慎重に、一歩一歩を最大の集中力を保ちながら下っていく。「何なんだよ、この邪魔な木は」

普通に下りればいいものを
自分撮りのため登ったり下ったり
倍疲れます

13:12
 地蔵岳分岐通過。登れば展望抜群の地蔵岳だが、今日も遠慮しておこう。登るルートも知っているし、別に登ってもいいのだが、まあ止めておこう。

地蔵岳分岐通過

13:25
 さらに続く鎖場の道。いつもいつも下山はこの旧下山道ばかりで、一度新下山道なるものに挑戦してみたいが、なぜかネットには新下山道の情報は少ない。私も一度だけ新下山道で下ったことがあるような薄っすらとした記憶があるのだが、なぜか思い出せない。

さらにさらに続く鎖場の日

13:32
 谷を横切り急斜面をトラバースする部分に延々とトラロープが張られ、立ち木などの適当な支点を得られないところでは、かなり上まで支点を取りに行っている。足元は濡れたり斜めだったりで、ロープの存在は助かるが、登るたびに増えているような気がする。

ここはロープ場のトラバースだ

13:38
 登頂ルートにも展望岩があったが、下山路にも展望岩が存在する。こちらは表面が滑らかな平たい丸い岩で、へたり込むのに打って付けの岩だ。いつもなら岩壁に取り付くクライマーの姿が見えるのだが、今日はいないな。4年前に死亡事故、去年の秋にも事故があったし、クライマーの皆さんは敬遠されているのかな。

旧下山道展望岩から見た岩壁

13:50
 滑らかでお尻にやさしい展望岩に一度へたり込むと、お尻から岩に根が生えてしまう。根性と気力とを振り絞りやっとのことで根っこを引っこ抜き、下山再開。

14:06
 展望岩からも急な鎖場・ロープ場が連続するが、三脚を立てるスペースもなく登り返す気力もなく、15分間も自分撮りすることなく虹ケ滝に降り立ってしまった。この虹ケ滝付近はヒルの王国らしいが、まだその勢力は弱い。

虹ケ滝まで下山
もうこの先には鎖場はない

 虹ケ滝の下を、大岩を伝い渡るのだが、簡単に渡れるときと、どうやって渡ろうかなと悩むときがある。大雨のたびに大岩の配置が変るのだろうな、水の力は偉大だ。

14:13
 虹ケ滝から劇的に道がよくなる。北の峰山へと続いていたのかもしれないが、虹ケ滝左岸上流の橋が危険だか落ちているのか通行禁止となっている。昔々の賀野神社への参詣道だったのだろうか。

虹ケ滝を過ぎると劇的に道がよくなる

14:16
 道端の伐られた倒木に木枠が取り付けられている。この状態では何でこんなことをするのか分からない。

 この乗り越えるのも大変な倒木が道を塞ぎハイカーが難儀しているのを、倒木の前後に短いはしごを掛け、この木枠は手摺として使われていたのだ。倒木を処理した後も、手の込んだ親切心あふれる手摺を壊すのに忍びなく残したものと思う。

ハイカー思いの倒木超え手摺跡

14:21
 植林のなかに道はさらに続く。どこかに斜面を真っ直ぐに下りるガラガラのショートカットがあったが、今はもう使われていないようだ。おそらく私と後方のハイカーの中間地点から左に下りる斜面がそうだったんだろう。

このまま進むと賀野神社へ至る

14:25
 真っ直ぐ進むとよい道のまま賀野神社、引き返すように折り返すと途中に悪路が待ち受けているが本日の出発地点へと戻る道との分岐点、大曲だ。いつもは 賀野神社へと抜けて舗装林道を下るが、今日は久しぶりに悪路に挑戦してみよう。

大曲を曲がる、登山口まで30分

14:33
 渓流沿いに通された石積みの道は、流されてしまいない。岩を乗り越え、流れを渡りながら、マーキングを辿り道なき道跡を、フィールドアスレチックさながらに進んでいく。このようなルートなので増水時はさらに困難さを増し、通行できないときもあるだろう。

どこが道だったのかさっぱり分からない

14:40
 明確な石積みが築かれた道跡が残るが、流れに架かっていた木橋は対岸の石積みと共に痕跡も残すことなく消え去り、今は単なる障害物に成り下がっている。この道を通すために要した莫大な労働力、大雨のたびに繰り返される修繕工事、参拝道を守るという信仰心だけではなく、何か実利が伴っていなくては私にはできないな。

ここには木橋が架かっていたのだろうな

14:43
 渓流から離れると道は何事もなかったかのように復活する。

道が復活

14:51
 六甲山を歩くと至る所で砂防ダムを見るが、雪彦山には少ない。でもこんながら空きの砂防ダムが本当に役に立つのだろうか。案内板によりこの渓流の名前が「雪彦川」と分かった。

雪彦川第二ダム(鋼製格子枠砂防ダム)

雪彦川第二ダム(鋼製格子枠砂防ダム)

 雪彦川第二ダムはオープンタイプ(透過型)の砂防ダムで大洪水時に備えて平常時に流失土砂を透過させ、計画的に空容量を確保する土砂調節機能を有したものです
 雪彦川は流速が早く、巨岩が多く点在しており、洪水時に流出する。土砂流を格子構造によって捕捉するすることを目的とした砂防ダムです。

砂防ダム幅:60m、格子幅16m、格子高さ14.5m、
最大洪水流量25.3m3/s、計画貯砂量24,300m3

14:55
 砂防ダムから一歩きで雪彦山登山口に到着。山之内まで歩いて行けばバスの待ち時間は1時間半ほど。さらに雪彦温泉まで歩いて温泉に入れば、丁度よい時間になる。

 でも、ここで奥の手を使う。アッシー君(妻その1)に迎えに来てもらうことにした。

無事登山口に戻る

 ぶらぶらと歩いていると、川で鍋を洗っているおっちゃんに声をかけられた。「自分は雪彦山の麓に住んでいるが山には登らない。なにも得るものがないのに苦労して登るのはなぜなのか」と訊ねられた。疲れていたのか「山を歩くのが好きだから」と、何のひねりもなく答えた。

 ふーんという顔をしていたが、ちょっと待ってと「リポビタンD」をご馳走になった。よいおっちゃんだ。

15:50
 山之内バス停の手前、旧山之内小学校(明治9年開校、最大時は500人近い児童がいたが、林業の減衰に伴う過疎化で平成22年3月の閉校時にはわずか20人)前で、妻その1と落ち合い、家路に着く。



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